読書ノート

リンクに読書ノートを追加しました。
以前はブログで読書記録をつけていましたが、最近読んだ本はブクログを利用して記録しています。(といっても記録がおいついてない…)読んだ本に簡単な感想をつけています。主にホラー幻想系だけを選んで記録していたけど、使ってみるとブクログなかなか便利なので、他のジャンルの本も追々のせていこうと考えています。絶版本はのせられないのだけが残念、そちらはブログの方に書こうかなと。
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料理の本2冊

料理関連で素敵な本を読んだ。
*迷宮レストラン -- 河合真理
「歴史上の人物や空想の人物をお客様に迎えて、その方の好みに合わせたとっておきの料理を出すレストラン」という設定で、料理研究家である著者がメニューを考案して実際のコース料理に仕立て、レシピと共に紹介している本。料理を通して客である人物にアプローチしつつ、国柄やその時代の食に触れた薀蓄と知的エッセンスが散りばめられている。食という切り口から見たこれらの人たちは、私たちが知っているつもりの人物像とちょっと異なる側面を見せていたり、体温を感じさせてくれる。完成した料理の写真が美しい。器からテーブルセッティングに到るまで「客人」のイメージを豊かに喚起させるエスプリと細やかな心づくしに溢れている。例えばメニュー、ファーブルに出すのは「なすのマリネてんとう虫見立て(ナスのマリネをトマトとトリュフで作ったてんとう虫に詰めてある)」、シンドバッドへは「ココナッツとフルーツの宝石見立て(本当に宝石みたいに綺麗!)~」樋口一葉には「甲斐の銘酒、鰻豆腐(鰻が好物だったとか)」などなど。どの料理も本当に美味しそうだけど私が特に「食べてみたい!」と強く思ったのはダーウィン「すっぽんのコンソメ仕立て」、ジェロニモ「バッファローのシチュー」、聖徳太子「人参の蘇和え」とか他にもいっぱい!牛乳を何時間も煮詰めてつくる「蘇」の作り方とか、トナカイのステーキやイラクサなど「そんなもの食べるの!?」と思うような素材も出てきて、作り方や素材の説明がとても面白い。様々な国の様々な時代の料理を見ていると、当たり前だけど時代や地域によってずいぶん食べ物って違うのだなぁと思わせられる。これらのメニューを作るにはお客になる人物の資料を丁寧に調べ、本人の好みや思い出に絡めて当時の調理法や異国の素材などを勘案して、現代の私たちが実際に作って食べても美味しいようにレシピを考えたそうで、現代では手に入らない素材やわからない調理法もあったりで、それはそれは大変なことだったろうと作者の熱意に感動する。それだけでも凄いけど「シェフによるメニュー説明」のところに客人への敬愛と温かな思いやりが滲み出ていることに心を打たれる。読み飛ばしてしまうのはあまりに惜しく、ご馳走のように少しずつ大切に味わいながら読みきたい本。

*ながいも料理 -- 細貝葉子
夏の猛暑で内臓の疲れを感じ、長芋が良いらしいと知って図書館でたまたま手に取ったこの本が、大変奥ゆかしく素敵な本だった。単純に言ってしまえば長芋料理のレシピ本ということになるのだが、著者の人柄を想像させるような物柔らな口調で語りかけるような文章と美しい料理の写真を眺めているだけで、なんだか良い気持ちになってくるのだ。たとえば前書きの文章。「おいしい料理に出合った時ぜひ真似をして作っていただきたいのです。味、香り、かたちなど五感がきらめいているうちに。それからあなたの好きな素材に変えたり‥ご自分だけの料理へと変身をさせてくださいませ。」「ただ一度の人生でございます、おいしいものをたくさん食べて、心豊かに生きられたらと存じます。」「一日のうちどこかで『おいしいね』とほほ笑むときを過ごしていただける、お役に立てたらと『ながいも』と語り合っております」ね、素敵な文章でしょう?料理の名前も「昔見たお月様」「樵のいす」「落し文」など昔懐かしいような情緒があって。料理紹介の合間に川柳、短歌、刻字作品(それぞれ作者が違う)などや季節の風景写真がセンス良くはさんである。それらの作者や著者についても一切説明されていないのだけど、出版企画が青森県倉石町役場となっているので、おそらく地元で創作活動をしている人たちなのだろう。長芋という素材の味の奥深さを壊さないようにしつつ日本人固有の情趣を大切にと工夫されたレシピにも好感を持った。

読書ノート---日本

図書館で本を借りるとき「これ読んだことあったっけ?」と悩むことが多くなった。以前読んだ本や持っている本を忘れて借りてしまうことがしばしばあり、仕方なく読書ノートを作ることにした。といっても自分のためだけの覚書だけど。とりあえず最近読んだものと蔵書をまとめた。新たに読んだら追加していく。
怪談・奇譚・ファンタジー・推理・ナンセンス・SF・ホラーなどの幻想文学のみ。左に属すと感じたらジャンルを限らず入れる。当然評価は主観オンリー。タイトルあいうえお順。
★・・・愛読書
◎・・・大層面白かった/感動した/私好み
○・・・まぁまぁ面白い
△・・・微妙/好みが分かれる/1度読めば十分
×・・・途中で止めた/全く記憶に残らなかった/不快
(ア)---アンソロジー (短)---短編集(タイトルから判らないもののみ)

※付記 2011年読了分からブクログへ移行しました。

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○緋い記憶(短)/高橋克彦
△悪魔のトリル(短)/高橋克彦/講談社--読んだ話ばかりだった。
○アド・バード/椎名誠/集英社--この人のエッセイには興味ないがSF作品は好き。読みづらいけどはまると独特の世界が癖になる。
◎あの世からのことづて/松谷みよ子/筑摩
△姉飼い/遠藤徹/角川--道具立てがセンセーショナルでも意外と底が浅い気が。
△鮎川哲也編怪奇探偵小説集1、2、3(ア)/ハルキ文庫--新青年など昭和中期くらいまでの短編を集める。新青年風の癖のある話が多く面白いけどやや飽きてくる。印象に残ったのは山本禾太郎「抱茗荷の説」
○アラマタ美術誌/荒俣宏/日刊ゲンダイ--講演をまとめたもの。例によって話が飛んだり自分だけわかってて?説明不足なとこもあるけど、古今美術史を縦横に歩き俯瞰して直感的に鷲掴みする独自の見識はユニークで新鮮で目からウロコ。
○アルファファ作戦(短)/筒井康隆/中公文庫
◎異界からのサイン/松谷みよ子/筑摩
△石の刻シティ/大原まりこ
★一千一秒物語/稲垣足穂/新潮文庫
○犬神家の一族/横溝正史/角川
×いのちのパレード(短)/恩田陸/--雰囲気だけの話でどれも印象うすい
△陰獣/江戸川乱歩
★雨月物語/上田秋成
○うつろ舟/澁澤龍彦
○うわさの人物心霊を生きる人々/加門七海/集英社~ユタ、行者、密教僧などのインタビュー。
×SFバカ本たいやき編・白菜編(ア)/ジャストシステム--遠視の話以外つまらん
△エスパイ/小松左京/角川
◎江戸川乱歩傑作選/新潮
◎江戸川乱歩全集 屋根裏の散歩者/光文社?--「二銭銅貨」「D坂の殺人事件」「人間椅子」
○奥州ザシキワラシの話/佐々木喜善
○おそれ/高橋克彦/ふしぎ文学館
△小川未明集・幽霊船/前近代的な哀話の陰惨さが怖い。
×押川春浪回想譚/横田順彌/ふしぎ文学館
○おそろし/宮部みゆき/角川--罪人への暖かい目線と人間性への深い視点で、単なる怪異譚に終わらないところがこの作家ならでは。物の怪と対決するシーンは感動的。でも全ての殺人が逆ギレした挙句のものというのは単純すぎる。
△恐ろしい話(ア)/ちくま文学の森--読んだのが多い。「三浦右衛門の最後」(菊池寛)が壮絶。
△怪を訊く日々/福澤徹三/メディアファクトリー--実話聞き書き系は類型化してるせいか読んでる間だけ怖くても読んだはしから忘れるのが多い中で、作家のひっそりした語り口が印象的。
△怪奇無尽講/飯野文彦/双葉社--怖いよりドロドロした気色悪く不快な話。オチも先にわかってしまった。
△怪狂譚/蜂巣敦/パロル舎--校正ミスが多い。。
△怪の標本/福澤徹三/角川--表題作は文体に雰囲気があって良
◎怪談・日本古典文学幻想コレクション/国書刊行会/西鶴諸国話、耳嚢、老媼茶話、御伽草紙などから怪談話を抜粋現代語訳。ブラボー!よくぞ出版してくれました。
△怪談累ヶ淵/勉誠出版--累ヶ淵に関する芝居・小説などを集める。柴田連三郎・田中貢太郎・狭山温など。
◎怪談徒然草/加門七海/角川--すべて作家の実体験で面白かった。
△怪談熱-福澤徹三/角川--怪談というより不条理の恐さ
○怪力乱神/加藤徹/中央公論--中国古典に現れる想像力と世界観を読み解く。興味深し。
◎鍵-自選短編集/筒井康隆/角川
○影が重なる時/小松左京/早川
★影を踏まれた女/岡本綺堂/旺文社
△傾いた世界/筒井康隆/新潮--「関節話法」は抱腹絶倒。声出して笑ってしまった。
◎河童・或る阿呆の一生/芥川龍之介
○壁 - S・カルマ氏の犯罪/安部公房
◎甲子夜話/松浦静山
○神隠し譚/松谷 みよ子、柳田国男、水木しげる他/桜桃書房--色々入っていて楽しめる。
○眼球綺譚(短)/綾辻行人/角川--かなりエグイ話もあるがストーリーがしっかりしている。
○玩具修理者/小林泰三/角川--面白いんだけどラヴクラフトへのオマージュがあからさまに出てくるのはしらけた。
○歌伝枕説/荒俣宏/世界文化社--東北の歌枕を訪ねる旅。時空を超えたスケール感と緻密な分析があいまって面白かった。東北はやはり不思議な土地だ。
△カランコロン漂白記/水木しげる/小学館--ふしぎ旅行の方が面白かった。水木さん自身について私は人間離れしたブキミな人と思っている。
△カンタン刑(短)/式貴士/光文社
◎聴耳草紙/佐々木喜善/筑摩--初めて聴耳草紙を読んだときは衝撃だった。遠野物語と違うグロテスクなほどの土着性こそが逆に民話の真実という気がする。
◎奇談・日本古典文学幻想コレクション/国書刊行会--男色大鑑、今昔物語、兎園小説、平家物語、太平記などから奇談を抜粋現代語訳。
△奇談蒐集家/太田 忠司/創元クライム・クラブ--読みやすい。
○魚籃観音記(短)/筒井康隆/新潮--「建物の横の路地には」この話大好き!「分裂病による建築の諸相」も良。
○狐のだんぶくろ/澁澤龍彥
×亀朴
×気まぐれスターダスト(短)/星新一/ふしぎ文学館--星新一は感動的に面白い話も多いけどコレは面白くなかった。シニカルだけど時代物の感がぬぐえず。
○記夢志/島尾敏雄/沖積舎
×旧怪談/京極夏彦/幽ブックス--耳袋を新耳袋風に意訳して台無しにしただけ。だいたい新耳袋の文体自体思わせぶりなわりにあいまいで怖くもないしつまらない。
◎鏡花短編集/川村二郎編/岩波
○驚愕の曠野-自選ホラー傑作集2/筒井康隆--表題作がともかく凄い、忘れられない印象を残す。
×狂鬼降臨(短)/友成純一/出版芸術社ふしぎ文学館--やたらとグロいだけで筒井康孝みたいなナンセンスもないし目新しさも無い。ただグロが書きたいだけみたいな作家。
○狂人日記/色川武大--昔一時色川武大にのめりこんでいた。どの話がどの本だったかごっちゃになっているけど。息を止めて水中に居るような苦しい読書だった。今でもそのフレーズのいくつかは心の深奥に刻まれている。
○恐怖館主人(短)・異形博覧会2/井上雅彦/角川ホラー--怖い&グロいけど本を閉じると後に残らず。日本版スプラッタパンク?
○虚無への供物/中井英夫
△燦めく闇/井上雅彦/光文社--散文的でストーリーが判り難い。残酷でダークなイメージの羅列だけの感じ。
○綺霊(短)/井上雅彦/ハルキホラー--鮮烈なショートショート。
◎近代能楽集(短)/三島由紀夫
○草迷宮/泉鏡花
○くちづけ(短)/小池真理子/出版芸術社ふしぎ文学館--女性主人公の虚無的な絶望状態が生み出す怪異はすごいリアリティと切なさを持っていて、しかも袋小路の恐怖。とても怖い。
◎くノ一忍法帖/山田風太郎
×首吊少女亭(短)/北原尚彦/出版芸術社ふしぎ文学館--湿った陰湿な感じのグロですぐ読むのが嫌になった。
△熊野物語(短)/中上紀/ --現代風に軽味な説話伝説。ここぞというところですーっと終わる尻切れ蜻蛉な感じで食い足りず、読後感が何も残らない。
△蜘蛛/遠藤周作
×くらら怪物船団/井上雅彦/角川ホラー--期待したが周辺描写ばかりで肝心の怪異の部分がちょっとしかなくて飽きた。
△暗闇(ア)/井上雅彦ほか/中央公論新社--「棲息域-宝珠なつめ」だけ面白かった。
◎黒い家/--現代的なホラー。いろんな意味で怖い。犯人が最後どんどん超人化していくのがちょっとだけど、久々に本格的で優れたホラー作品に出会えて感動。
○黒い布/色川武大
△黒蜥蜴/江戸川乱歩
△拳銃稼業(短)/大藪春彦/--スピード感があってゾクゾクするピカレスクなんだけど、ところどころ古くて残念。ボスの情婦のマンションが月7万て。
△幻想小説大全・鳥獣虫魚(ア)/北宋社--内外有名短編の寄せ集め、読んだのが多かったが「虫づくし(新井紫都子)」は面白かった。
★幻想小説名作選/半村良選/集英社文庫--夏目漱石「夢十夜」川端康成「片腕」など傑作ぞろい。特にお気に入りは都筑道夫「風見鶏」半村良「ボール箱」「牧神の春」中井英夫。
○幻想図像集-神々・占星術編/八坂書房--説明が雑なところがかえって面白かった。
○幻想図像集-怪物編/八坂書房--モンスターを大雑把に網羅してるのがかえって面白かった。
◎現代怪談集成上・下/中島河太郎・紀田順一郎編/立風書房--泉鏡花「海異記」太宰治「竹青」橘外男「逗子物語」など
△蠱/加門七海/集英社--実体験ほどには小説の方は。この人の文体はもうひとつのれない。
○巷説百物語/京極夏彦/角川--風俗描写が生き生きしていて楽しめた。ホラーというか異常心理犯罪もの?
○ゴードンスミスの日本怪談集/荒俣宏訳/角川--当時の絵師によって書かれた挿画が素晴らしい。物語りも現在のように痩せていないで豊潤。
△ゴーストと出会う夜/大原広行/新紀元社--西洋のゴーストの浅い解説。
×コーヒー党奇談(短)/阿刀田高/講談社--ありきたりな感じ。
★心/ラフカディオ・ハーン/岩波
◎古城秘話/南條範夫/河出
△木霊狩り/荒俣宏/文藝春秋--木が種によって「木霊」を持つというこの人独特の視点が面白いけど、話が飛ぶのと説明が尻切れ蜻蛉のことがあるのがちょっと。
△子供に語ってみたい日本の古典怪談/野火迅/草思社--勝手な意訳が香気に乏しく感心しない。
△壊れ方指南/筒井康隆/文藝春秋--ちょっと面白いのもそうでないのも。
△金色の死(短)/谷崎潤一郎/講談社--「母を恋ふる記」がいいくらい。
×今夜はパラシュート博物館へ/森博嗣/講談社--アンソロジーに入ってたぶるぶるは面白かったけど冒頭のお屋敷お嬢様の会話がうんざり、主人公が出る前にギブアップ。趣味じゃない。
△さいはての家~その他の物語/菊地秀行/光文社--幻想的な雰囲気豊か。
◎坂口安吾集/ちくま日本文学全集
△殺意の風景/宮脇俊三/光文社
○座敷ぼっこ/筒井康隆/出版芸術社ふしぎ文学館
★サラサーテの盤/内田百/福武文庫--「青炎抄」「東京物語」など私を虜にして離さない百幻想文学の至宝を網羅。
△時間エージェント/小松左京/新潮
△死国/坂東真砂子/角川--登場人物の心理描写が丁寧でわりと面白かったが、猫殺し女と知ってからは二度と読まない。
△七人の安倍清明(ア)/文春文庫--たいして印象に残る話なし。
△死にまつわる日本語辞典/奥山益朗/東京堂出版--戦中派の編者の地に足のついた視点。文学作品の一文を引いている。
△十月のカーニヴァル-異形コレクション1/井上雅彦監修/光文社--秋里光彦「かごめ魍魎」が面白くて怖かった。
△十七人目の死神/都筑道夫/角川
△十の恐怖(ア)/井上雅彦・赤川次郎・小林三など/角川--低年齢層向けでどれも軽め。
○叙情歌/川端康成--川端文学の怪談集成
△叙情的恐怖群/高原英理/毎日新聞社--散文的でとりとめのない文章が話に乗りにくく気色悪いわりに怖くない。町だの道だの環境描写が執拗というかそれを書きたくて書いてる感じ、恐怖部分が曖昧で怖くない。レズ女性の話はちょっと面白かった。
◎新・石の伝説/石上堅/集英社
○人獣細工/小林泰三/角川--グロいけど面白い。
◎人生処方詩集/寺山修司編著/立風書房
◎新青年傑作選/角川
△真珠郎/横溝正史/角川
○人造美人/星新一
△新耳袋コレクション恩田陸編/木原・中山」/メディアファクトリー--新耳袋は全部採取した実話だそうだけど、編集で話のトーンを揃えてあるためにリアリティが減じて実話ぽく感じない。誤植多し。
△水妖記/岸田理生/角川ホラー--精一杯ドロドロにエロティックに書いてるけど微妙に古臭くてエロくない。パターン化が見えるのと登場人物などの細部が雑。惜しい。
○砂の女/安部公房
○生家へ/色川武大/
◎世界でいちばんコワイ話/竹内健・宇野亜喜良/新書館--挿絵と相まって強い印象
○絶海ノン・ノベル/祥伝社--近藤史恵「この島でいちばん高いところ」は衝撃的かつ感動的な忘れ難い話だった。
○戦国自衛隊/半村良/ハヤカワ--痛快。
○戦争はなかった/小松左京/新潮
★掌の小説/川端康成/新潮
◎そして粛清の扉を/黒武洋/新潮--現実には無理な社会の癌への爽快な復讐。こういうテーマはわりと好き。むしろもっと出てきて良いと思う。
◎大妖怪/藤原審爾/文芸春秋
△高砂幻戯/小松左京/ハルキ文庫--粘っこい世話物風思い入れ描写はほど飛ばし読み。
○地球になった男/小松左京/新潮
△地獄番鬼蜘蛛日誌/斎樹真琴/講談社--面白いけど台詞が漫画っぽくて安い。閻魔が自分を「麿」って変。
○父が消えた/尾辻克彦/河出新
△懲戒の部屋-自薦ホラー傑作集1/筒井康隆/講談社--よくこんな気色悪いor精神的不快な話思いつくものだと変な感心。「近づいてくる時計」が良。
×鎮守の森に鬼が棲む(ア)/講談社時代小説傑作選--タイトルに騙された、中身はただの時代小説集。タイトルが全然中身と関係ない!!(怒)幻想文学じゃないけど二度と間違えて手に取らないよう載せておく。
△九十九怪談/木原浩勝/角川
△九十九怪談第二夜/同/同--ここぞというとこで話を切るのであまり怖くない、すぐ忘れる。
○出口/尾辻克彦/河出新
★田園に死す/寺山修司/角川
◎鉄塔のひと・その他の短篇/椎名誠/新潮
△伝説は生きている/高田紀子/道新出版局--北海道内の伝説。写真はきれいだけど文章が素人臭い。
★天体嗜好症/稲垣足穂/河出新
△東西不思議物語/澁澤龍彦/河出
★遠野物語/柳田国男/新潮
△ドールズ/高橋克彦/角川
◎都心ノ病院ニテ幻覚ヲ見タルコト/澁澤龍彦/河出--澁澤の作品は小説評論含めてほとんど読んでいると思う。独特の気取った文体にはやや反感を持っていたけど、死を間近にして声を失い喉に穴をあけてチューブを通し寝たきりの状態で書いたこの一文の透徹ぶりには圧倒された。まさに澁澤ダンディズムの面目躍如と感服した。
×となりの宇宙人(短)/半村良/河出--この人にしてはつまらなかった。
△隣之怪木守り/木原浩勝/メディアファクトリー
△隣之怪蔵の中/木原浩勝/メディアファクトリー
○雪崩連太郎幻視行/都筑道夫
△七色の海/曾野綾子/出版芸術社ふしぎ文学館
△七つの黒い夢(ア)/ 乙一、恩田陸、北村薫、岩井志麻子ほか/新潮--印象に残らない
△七つの死者の囁き/有栖川有栖、道尾秀介、鈴木光司ほか/新潮文庫--心霊や殺人よりもメンヘラが怖かった。
△奈落(ア)/集英社文庫--漫画家転じて作家となったの山上龍彦の短編が一番鮮烈だった。あとは印象薄い。
○肉食屋敷/小林泰三/角川
◎二笑亭奇譚/式場隆三郎/ちくま
△日本怪奇小説傑作集1~3/創元推理--ほとんど読んだもの多し
◎日本怪談集1、2/種村季弘編/河出
○日本怪談集幽霊編上下/今野円輔/中公文庫--子供の頃持ってた。久しぶりに読んだが昭和初期~30年代くらいまでの体験談だけど、現代のとずいぶん違っている印象。
○日本幻想文学大全-幻想のラビリンス上・下/澁澤龍彦編/幻想文学界--渡辺温、中島敦、幸田露伴、久生十蘭など
★日本伝説集/武田静澄/現代教養
★日本の海の幽霊・妖怪/関山守彌/--船幽霊や妖怪も怖いけど難破船の実録が何よりも怖かった。。
★日本の怪談1、2/田中貢太郎/河出
○日本の民話7・妖怪と人間/松谷みよ子編/角川
★日本の昔話/柳田国男/角川
★日本怪談集妖怪編/今野円輔/教養文庫
△塗仏の宴 宴の支度・宴の始末/京極夏彦--話は面白いけど京極堂の気取った長講釈がウザい、以後この人のは読まなくなった。全部説明がつくのでホラーというより推理。
◎猫の縁談/ 出久根達郎/中公文庫--古本屋に集まる人間は社会や人生のアウトサイダー、そこが深くて面白い。
○根無し草の伝説/菊地秀行/出版芸術社ふしぎ文学館--ディザスターガールと腹切り同心は面白いがそれ以外はやや読みにくい。時代物は抜群に面白いのになぁ。オマケで○
○能登怪異譚/半村良/集英社
×呪いの博物誌/藤巻一保/学研--下ネタみたいな呪物が多くキモイ。
★萩原朔太郎/ちくま日本文学全集
○箱男/安部公房
△鼻/曽根圭介--表題作は意味がよくわからなかった。
★花嫁化鳥/寺山修司/中公文庫
△パノラマ島奇譚/江戸川乱歩/--乱歩の中ではあまり面白くはないけど、機械国の描写とかところどころさすがのイマジネーション。
★ひかりごけ/武田泰淳/新潮
○飛行蜘蛛/錦三郎/笠間書院;復刻版--蜘蛛の雪迎えの研究、蜘蛛に関する考察が興味深い
○日の移ろい/島尾敏雄
○百/色川武大/新潮
○百物語異聞/倉坂鬼一郎/出版芸術社ふしぎ文学館--比較的タイトな文章や百や古典を読み込んでるところ(ラブクラフト傾倒はちょっと辟易)は好みに近いけど、後半は冗漫で退屈な話が多い。制帽譚と地球儀は良。おまけで○
△百物語怪談会/東雅夫/ちくま--あまり怖くないけど明治の百物語はいかにも「怪談」という雰囲気。
△百物語の百怪/東雅夫/角川--興味深い部分もあるけど、無理矢理百物語になぞらえた編集が読み辛く途中で飽きる。
△百鬼夜行絵巻をよむ/澁澤龍彦、小松和彦、花田清輝他/河出新
△不思議な世界(ア)/山田太一編/ちくま--河合隼雄の共時性についての話は面白かった。
△不思議の扉-時間がいっぱい(ア)/大森望編/角川--幅広く集めてるわりには薄口で印象に残らない。
★不思議旅行/水木しげる/中公文庫
×仏像ミステリー/正木晃/講談社--歴史に興味がないと面白くない。
◎古本奇譚/出久根達郎/中公文庫--古本屋を見る目が変わった。
△文藝会談実話/東雅夫編/ちくま--昔の作家の恐怖体験集。あまり怖くない
△平成都市伝説(ア)/牧野修ほか/中央公論新社--口避け女が走ってくる話意外は印象薄い。
△ぼっけえ、きょうてえ/岩井志麻子/角川--面白いけど不浄な感じの作風なので何度も読み返したくはならない。
○ボッコちゃん/星新一
◎文豪ミステリー傑作選1、2/河出
×宝石傑作選/光文社--サスペンス劇場みたいな話ばかりで古く感じる。
△星の塔/高橋克彦/文芸春秋
×窓のこちら側/新井素子/ふしぎ文学館--面白くないことはないんだけどこの作家ならではの少女漫画チックな恋愛妄想炸裂っぷりが小っ恥ずかしくて読むのをやめた。
×魔よけ百科・世界編/岡田保造/丸善出版--説明は推測だけで浅く写真も印刷もマズい。紙だけが上等。
△真夜中の檻/平井呈一/創元推理
★水木しげるの妖怪文庫1~4巻/水木しげる/河出
○ミステリーストーン/徳井いつこ/筑摩--石の博物誌
◎みるなの木(短)/椎名誠/ハヤカワ
★宮沢賢治全集1~17巻/筑摩書房
★宮沢賢治童話集宮沢清六・堀尾青史編/実業之日本社--司修の挿画が大変に素晴らしい。巻末に賢治の実弟宮沢清六の貴重なエピソードあり。絶版になっていて残念。ぜひ再販して欲しい。
○名短編ここにあり/北村薫・宮部みゆき編/ちくま--山口瞳「穴」井上靖「考える人」面白かった。
★冥土・旅順入城式(短)/内田百/岩波--何度読み返したかわからないくらい愛読書中の愛読書。「山高帽子」がお気に入り。
◎迷宮レストラン/河合真理/NHK出版--歴史上の人物へ供する想像力を凝らした創作レシピ。作者の熱意と客への敬愛に感動した。写真、イラスト、全てに心配りが行き届いた上質な料理のような本。
△冥談(短)/京極夏彦/メディアファクトリー--怪談のツボを押さえて上手いけど誘導部分が長すぎてうんざり、飛ばし読みした。壁の穴から顔が覗く話が怖い。
◎物いふ小箱/森銑三/筑摩--気品高い幻想譚。
△夜陰譚(短)/菅浩江/光文社--女の嫉妬、コンプレックスなどが怪をなす現代版女の情念ホラー。文体も女性的に気取ってまわりくどい。
○夜窓鬼談/石川鴻斎/春風社
★山の人生/柳田国男/ちくま
△闇の司/秋里光彦/ハルキホラー--短編が面白かったので読んでみたけど期待外れ。土地描写と残酷描写が執拗なわりに鬼の核心を書いていないため、国家機密というわりにスケールが小さい話。怖いというよりスナッフフィルムを見せられるてるみたいで不快。併録短編「屍~」の方が面白いけど結末が曖昧で不満。
○闇の中の子供/小松左京/新潮
△闇夜に怪を語れば(ア)/東雅夫編/角川ホラー--百物語アンソロジー。読んだのも多かったけど、村上春樹はオーソドックスな話に新鮮な語り口。
○山原の土俗/島袋源七/沖縄郷土文化研究会
◎幽剣抄/菊地秀行/角川--ストーリーも面白いし、読後に薄ら寒さを残すなど怖さも面白さも十分。短編の雰囲気と味わいもなかなかで実力を感じる。
△幽霊は足あとを残す/小池壮彦/扶桑社
△雪女のキス-異形コレクション綺賓館2/井上雅彦監修/光文社--印象に残ったのは新津きよみ「戻ってくる女」くらい。テーマのせいか怖いより湿っぽく陰気な話多し。
△ゆめこ縮緬/皆川博子/集英社--独特の雰囲気があるけど文体が読みづらいため印象に残らない。
△夢泥棒/赤瀬川原平/新風舎--夢の記述が詳細執拗。いかにも昭和なイラストはつげ義春に似てるけどやはりどこか粘っこい。
★夢日記/つげ義春/文春文庫--妹が捨てようとしてたこの本をもらったのが、つげ義春にのめりこむきっかけだった。
◎夢野久作/ちくま日本文学全集
○夜市/恒川光太郎/角川--併収作の方が面白かった。
△妖怪Walker/村上健司/角川--全国の妖怪伝説が残る土地の紹介。情報量はそこそこあるが狐鬼天狗といったありふれた妖怪ふばかりでイマイチ。
△妖怪大戦争/荒俣宏/角川--中途半端な印象、すねこすり可哀相。
★妖怪談義/柳田国男/講談社
○妖怪・土俗神/水木しげる/PHP
△妖怪を見た人びと/並木伸一郎/学研--体験談聞き書きだがただの霊体験では?というの多し
○よもつひらさか/今邑彩/集英社
△夜が明けたら/小松左京/ハルキ文庫--「凶暴な口」など名作も入ってるけど、思い入れ描写がくどいので途中で飽きる。
△悦びの流刑地/岩井志摩子/集英社--意図的?なのか不浄な感じの作風。何作か読むとまたこういう展開かと思う。
○鎧櫃の血/岡本綺堂/光文社--怪談らしいのは表題作だけで他は江戸情緒話など。
★落城・足摺岬/田宮虎彦/新潮
★檸檬/梶井基次郎/新潮--「桜の木の下には」は傑作。
★忘れられた日本人/宮本常一/岩波
★われに五月を/寺山修司/角川

読書ノート---海外

図書館で本を借りるとき「これ読んだことあったっけ?」と悩むことが多くなった。以前読んだ本や持っている本を忘れて借りてしまうことがしばしばあり、仕方なく読書ノートを作ることにした。といっても自分のためだけの覚書だけど。とりあえず最近読んだものと蔵書をまとめた。新たに読んだら追加していく。
怪談・奇譚・ファンタジー・推理・ナンセンス・SF・ホラーなど幻想文学のみ。左に属すと感じたらジャンルを限らず入れる。当然評価は主観オンリー。タイトルあいうえお順。
★・・・愛読書
◎・・・大層面白かった/感動した/私好み
○・・・まぁまぁ面白い
△・・・微妙/好みが分かれる/1度読めば十分
×・・・途中で止めた/全く記憶に残らなかった/不快感だけが残った
(ア)---アンソロジー (短)---短編集(タイトルから判らないもののみ)

※付記 2011年読了分からブクログへ移行しました。 

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○悪魔の薔薇(短)/タニス・リー/河出新奇想コレクション--アラビンナイト風味のダークファンタジーで面白かったが、表題作は結末が不快。
△アフターマン/ドゥーガル・ディクソン/ダイヤモンド社--表紙になってるやつ以外はたいして突飛な生物がいなかった。
◎アリスの不思議なお店/フレデリック・クレマン/紀伊国屋書店--素晴らしい想像力の見るファンタジー!知的でお洒落でアート。大好き。
○アンドロイドは電気羊の夢を見るか?/フィリップ・K・ディック/ハヤカワ--前半面白いがアンドロイド狩りのシーンは印象薄い。
★異色作家短編集1~18/早川書房--実家にあったので熟読。お気に入りは「夜の旅その他の旅/チャールズ・ボーモント」「壁抜け男/マルセル・エイメ」「無限がいっぱい/ロバート・シェクリイ」「くじ/シャーリイ・ジャクスン」
○イワンのばか/トルストイ/岩波文庫--3人の隠者の話がお気に入り。
◎宇宙ヴァンパイヤー/コリン・ウィルソン/新潮--話が面白い。ヴァンパイヤー理論が大変興味深い。
○ウは宇宙のウ(短)/レイ・ブラッドベリ/創元SF
△M・R・ジェイムズ怪談全集1、2/M・R・ジェイムズ/創元推理--下の傑作選だけで十分。
★M・R・ジェイムズ傑作集/M・R・ジェイムズ/創元推理--これぞゴシックホラー。
△エルソド座の怪人(ア)-異色作家短篇集20世界編/--重苦しい話が多い。
×エラリー・クイーンの冒険(短)/創元推理/エラリー・クイーン--クイーンを読んだことがなかったので手にとって見たけど、興味がもてない主人公と時代遅れ感に辟易して早々に離脱。クイーンはアンソロジーだけにしておこうと思った。
○エレンディラ/ガルシア・マルケス/ちくま文庫--さまざまな不思議イメージ、ラテンアメリカの香気。一度読んだのを忘れてだいぶ経ってまた借りて読み、二度目の方が面白く読めた。
△奥の部屋/ロバート・エイクマン/国書刊行会--引き込まれる文章だけど肝心なところが思わせぶりかつ曖昧で不満が残る、どうでもいい部分が詳しい。
△俺の中の殺し屋/ジム・トンプソン/扶桑社--一気に読んだけど読後感悪い。
○怪奇クラブ/アーサー・マッケン/東京創元--独特の不気味な雰囲気、女が語る2話だけ面白い。
★怪奇小説傑作集1~5(ア)/創元推理/--全話傑作。
×怪奇礼賛/E・F・ベンスン/東京創元--印象に残らない。
★外套・鼻/ニコライ・ゴーゴリ/岩波文庫--狂気の悲惨さと恐怖に、ナンセンスと凄絶なブラックユーモアが同居。さすが文豪。
◎海洋奇譚集/ピエール・ド・ラクロワ/知恵の森文庫--異常な海難事件のルポ。戦艦が真っ二つになったまま海洋を漂ったり、実話って怖すぎ!
×鏡の中の鏡/ミヒャエル・エンデ/岩波書店--曖昧なイメージしか残らない話より、挿入されてるエンデの父エトガーのシュールレアリズム絵の方が印象的。
△ガストン・ルルー恐怖夜話(短)/ガストン・ルルー/創元推理--グロテスク趣味、余韻に欠ける。
△火星年代記/レイ・ブラッドベリ/早川書房世界SF全集13--面白いエピソードも所々あるけど通して読んでると憂鬱になってくる。火星人の感情が人間まったく同じって。SFというよりは文明批判寓意小説。ブラッドベリの宇宙モノはアシモフ等と比べると湿ってて古びて感じる。
○カフカ寓話集/フランツ・カフカ/岩波文庫
○カフカ傑作短編集/フランツ・カフカ/福武文庫
★カフカ短編集/フランツ・カフカ/岩波文庫--イマジネーションの源。カフカは訳の違いが大きい。
△90年代SF傑作選上・下/ハヤカワ/--「フローティングドッグス」は鬱になるけど印象鮮烈、あとはいまいち。
★恐怖の愉しみ1,2(ア)/東京創元
○銀河ヒッチハイクガイド/ダグラス・アダムス/新潮--散りばめられたエピソードは面白いが核になって引っ張る主題がない。期待ほどではなかったけど「究極の答え-問い」のくだりが面白い。
○グリーンマン―ヨーロッパ史を生きぬいた森のシンボル/ウィリアム・アンダーソン/河出新--ヨーロッパ文化への理解が増した気がする。
○クリスティ短編集1~5/アガサ・クリスティ/新潮--初期のオカルトテーマものが良。クリスティはだいぶ前に全作読破したけどもう忘れた。長編で印象にあるのは「そして誰もいなくなった」「ABC殺人事件」「オリエント急行」あたり。
△黒い玉(短)/トーマス・オーウェン/東京創元--怖くも不気味でもなく着想はオーソドックス。文学的、ヨーロッパ的で陰鬱。
○黒い美術館(短)/A・P・マンディアルグ/?/--面白かったと記憶。
△クローム襲撃(短)/ウィリアム・ギブスン/ハヤカワ--ニューロマンサーより読みやすく表題作は面白かった。
△結晶世界-世界SF全集26/J・G・バラード/着想は面白いがストーリーが鬱陶しい。
★幻想と怪奇(ア)1、2/ブラッドベリ、ブラウン他/ハヤカワ
○現代殺人百科/コリン・ウィルソン/青土社--興味深いが読むほどにうすら寒くなってくる。本棚に置いておくのも怖くて手放してしまった。
×現代ミステリーの収穫 壁(ア)/扶桑社--総じて印象薄い。
△サイコ/ロバート・ブロック/東京創元--この作家は短編の方が面白い。
△最後の一壜/スタンリイ・エリン/ハヤカワミステリ--どれも良く出来た上手な短編という感じだけどやや古い感じは否めない。「画商の女」が面白かった。
◎サキ短編集/サキ/新潮文庫--アイロニカルな目で人間性の怖さとブラックな笑い。
○さらばニューヨーク/ウィリアム・アイリッシュ
○残酷な女たち(短)/L・ザッヘル・マゾッホ/河出新--想像してたより面白かった。情念や残虐趣味とかのドロドロ表現が全く無いのが良。
×時間のかかる彫刻(短)/シオドア・スタージョン/創元--この作家特有の不条理に残酷な結末に不快感。
○思考機械の事件簿/ジャック・フットレル/創元推理
○10月はたそがれの国(短)/レイ・ブラッドベリ
△ショイエルという名の星/コードウェイナー・スミス/ハヤカワ--タイトルの小編はキモいわりにハッピーエンドでまぁまぁだけど全体の世界観が凝ってる割に面白いと感じない。
★死霊の恋・ポンペイ夜話/ゴーティエ/岩波文庫--退治した吸血美女に未練があるのがいい。
△人類皆殺し/トーマス・M・ディッシュ/ハヤカワ--爽快ナンセンスな殺戮劇を期待したが極限閉塞状況の陰惨な人間劇が鬱陶しいだけだった。
×図解近代魔術/新紀元社--西洋魔術って意外と面白く感じない。
○スはスペースのス(短)/レイ・ブラッドベリ
★スナーク狩り/ルイス・キャロル/ちくま文庫キャロル詩集--謎が謎のまままかり通るナンセンス。なんというかもう大好き。
◎生物の驚異的な形/エルンスト・ヘッケル/河出新--微生物、菌類などを緻密に描いた図版、素晴らしい!こういう観察眼と画力を持てたらなぁ。
△蝉の女王(短)/ブルース・スターリング/ハヤカワ--スパイダーローズは面白かった。
△千の脚を持つ男~怪物ホラー傑作選(ア)/シオドア・スタージョン他--期待したがイマイチ。
△第四解剖室(短)/スティーブン・キング/新潮--少年と悪魔の話だけ面白かった。
×たたり/シャーリィ・ジャクスン/創元推理--前に読んで面白くなかったのに忘れてまた借りて読んでしまったorz 人間関係が主体でオバケはほとんど出てこないでガッカリ。S・キングの書評は当てにならないので絶賛してても真に受けちゃだめ。
○楽しい悪夢(短)/ロバート・ブロック/ハヤカワ--共にミステリーファンの両親が別々に買ってきたらしく家に2冊あった。思わず買いたくなるタイトルかも。
△憑かれた鏡(ア)/E・ゴーリー編/河出新--読んだことあるのばかり。
△天外消失(ア)/Fブラウン・シムノン・JDマクドナルド他/ハヤカワミステリ--粒はそろっているけど刺激は少ない。メグレ警視ってどこがいいんだろう?
○道化の町/ジェイムズ・パウエル/河出新--道化だらけの表題作が面白かった。間抜けな諜報部員のバス旅行とか着想がユニーク、ユーモアと毒。
△動物好きに捧げる殺人読本(短)/パトリシア・ハイスミス/創元推理--期待はずれ。他のアンソロジーにある巨大カタツムリやスッポンの方が印象的。
○どんがらがん(短)/アヴラム・ディヴィッドスン/河出奇想コレクション--一筋縄ではいかない話多し、読み応え。嫌な人間の描写が絶品。
◎2001年宇宙の旅/アーサー・C・クラーク/ハヤカワ--映画より謎とテーマがはっきりして断然面白くグイグイ惹きつけられる。
△夏への扉/ロバート・A・ハインライン/ハヤカワ--猫が心配だったので読み通した。前半は面白いが後半の面倒な科学話や回りくどい会話は飛ばした。堂々の予定調和。
△20世紀の幽霊たち/ジョー・ヒル/小学館文庫--恐怖表現は独特の不気味さがあって実力を感じるが、人物や背景を書き込みすぎてて読んでて疲れるし、雰囲気が全体に重っくるしい。ナンセンス的な軽味が無いのが惜しい。表題作や不気味な3兄弟の話などは面白かった。
△ニューロマンサー/ウィリアム・ギブスン/ハヤカワ--マトリックスの原案になった。世界観描写がほぼ主題だが読者を突き放した難解な文章で読みにくい。面白いかどうかは意見が分かれそう。
△ノディエ幻想短編集/シャルル・ノディエ/岩波文庫
◎願い星叶い星/アルフレッド・ベスター/河出奇想コレクション--冒頭「ごきげん目盛り」が出色。狂ったアンドロイドの描写がめちゃめちゃ怖い。理想世界がそのまま地獄という話も怖面白かった。
△ハードシェル(ア)/クーンツ、ブライアント、マキャモン/ハヤカワ--刺激的なクリーチャーと思いきやなんだそりゃな結末多し。冒頭2話はオチでズッコケ。米作家は衝撃的に始まっといて急にストーリーのテンポが落ちる(orその後予定調和に至る)ことが多い気がする。
○蝿の王/ウィリアム・ゴールディング/出版社失念--衝撃的内容。読み応えあるが、トラウマ。
△ビアス怪談集(短)上・下/アンブローズ・ビアス/東京美術--陰鬱でペシミスティック。犬の油は最悪最恐。
×ビースト/ピーター・ベンチリー/角川--巨大イカはほとんど出てこずありがちな人間ドラマに終始。ホジスンの短編ほどのワクワク感も無い。私ならこんなの映画化しない。
○鼻行類/ハラルト・シュテンプケ/出版社失念--イラストの力が圧倒的。学術風の文章が徹底しすぎてて読むうちだんだん疲れてくる。
◎壜の中の世界(短)/クルト・クーゼンベルク/国書刊行会文学の冒険シリーズ--久々に上物に出会えた感じでたいへん面白かった。何物にもくっつかない接着剤とかナンセンスで最高。訳も上等。
○フェッセンデンの宇宙(短)/エドモンド・ハミルトン/河出新奇想コレクション--生きている風と翼のある男とか着想が面白かった。特有の飛翔感ある作風。表題作はアンソロジーでよく見かけるが他の収録作品の方が面白く感じた。
×ふくろうの眼/ゲルハルト・ケップフ/図書刊行会文学の冒険シリーズ--文章はわかりにくくやたらシニカルなだけでさっぱり面白くない。切手を舐めて脅かす郵便局員のとこだけ笑えた。
△二壜の調味料/ロード・ダンセイニ/ハヤカワミステリ--表題作だけ有名で一番面白い。他のは途中でオチがわかっちゃう。調味料じゃなくてソースと訳して欲しかった。訳が全体にいまいち。
△ブラックウッド傑作選/アルジャノン・ブラックウッド/創元推理--「いにしえの魔術」は雰囲気満点だけど猫だらけの街なんか別に怖くない。西洋版猫町?
○フリーマントルの恐怖劇場/ブライアン・フリーマントル/講談社--怖いというよりは、ストーリーの巧みさと無駄の無い文体と人間性への鋭い目線で読み物として面白かった。ゴーストライター、諜報部員が魂を探す話など良。
×北京の秋-ブラック・ユーモア選集3/ボリス・ヴィアン/早川書房--印象なし。
×ベストアメリカンミステリ-ハーレムノクターン(ア)/ハヤカワミステリ--2000年以降に書かれたとは思えない新味の無い典型的すぎるアメリカンミステリ。途中で飽きて読むのを止めた。
◎ポー全集1~3/エドガー・アラン・ポー/東京創元--ポーは短編が好き。
△北極星号の船長(短)/コナン・ドイル/創元推理--大空の恐怖は発想が面白かった。
○ポドロ島(短)/L・P・ハートリー/河出新--「動く棺桶」は突飛で面白かった。表題作は怪奇小説傑作集の訳の方が上手い。
★ホフマン短編集/ホフマン/岩波文庫--時計、人形、錬金術、花園。幻想イメージの宝庫。
○マイノリティ・リポート/フィリップ・K・ディック/ハヤカワ文庫--表題作と水蜘蛛計画は面白かった。60-70年代SF作家が未来から見ると予知能力者とはw発想にただ感心。トータルリコールの原作が軽い話なのに驚き。
○幻の女/ウィリアム・アイリッシュ
○水蜘蛛/マルセル・ベアリュ/出版社不明--面白かったと記憶。
△未知への事典/コリン・ウィルソン/平河出版--興味深いがすぐ忘れそう。
★ミニ・ミステリ傑作選(ア)/エラリー・クイーン編/創元推理--ナンセンスから文学的なものまでクオリティ高い好編揃い。クイーンの紹介文もとても洒落ている。
○目には目を/カトリーヌ・アルレー/創元推理--コケティッシュな悪女がフランス的。
◎モーパッサン短編集1~3/ギイ・ド・モーパッサン/新潮--老女の悲恋や島に駆け落ちした男女のその後など、不思議な光輝のある哀話が印象的。
◎木曜の男/G・K・チェスタトン/東京創元--重い陰謀推理モノかと思えば途中からはちゃめちゃな展開でワクワク。読後に不思議な爽快感。安部公房ぽい?
○モンスターの歴史/ステファヌ・オードギー/創元社--「モンスター」が途中からもっぱら肉体的精神的に異形の人間だけについて語られるのがやや浅い印象。実在のアンドロギュヌスなど豊富な写真図版には圧倒される。
◎柳/A・ブラックウッド
○闇の展覧会 霧(ア)/カービー・マッコーリー編/ハヤカワ--マンリイ・W・ウェルマン「昼、梟の鳴くところ」は私好みで面白かった。石が育つ話もまぁまぁ。キングの中篇はさすがに子供の使い方が優れているが話は80年代のSFX映画の台本みたい。”ヒッチコック風結末”が深さを出している。
×ラッカー奇想博覧会/ルーディ・ラッカー/ハヤカワ--アメリカン臭がきつくて途中で止めた。
★ラヴクラフト全集1~7/H・P・ラヴクラフト/創元推理--着想が抜きん出てる。エンタメ&恐怖。
★夜の声/W・H・ホジスン/創元推理--愛読書中の愛読書。海洋奇譚大好き。
△レベッカ/デュ・モーリア/出版社不明--心理もの。先妻のお化けが出て来ないでがっかり。
○ワンダフル・ライフ/S・J・グールド/ハヤカワ--読んだときすでにハルキゲニアが上下さかさまとわかってたので衝撃が弱かったけど、それでも興味深く読めた。
○幽霊世界(ア)/マキャモン他/新潮--好篇が揃っている。家族テーマが多い。冒頭の父の幻に悩む女性の話は同情に耐えなかった。結末投げ出しの表題作には唖然。
△幽霊船/リチャード・ミドルトン/国会図書館--「ブライトン街道で」で期待したがホラーといえる話はなかった。
×乱歩の選んだベストセラー(ア)/江戸川乱歩編/ちくま--今読むと古くて刺激の無い作品ばかり。
○聊斎志異/岩波少年文庫--太宰など色々な作家が借りてる話の元がわかって面白かった。
◎ロシアの妖怪たち/斎藤君子/大修館書店--ロシアの妖怪はあまり知られていなかったので興味深く読んだ。物語として楽しい。
◎ロボットの時代(短)/アイザック・アシモフ/ハヤカワ--I Robotの後に書かれた短編集。木星調査に訪れる3台のロボットと木星人とのやりとりは抱腹絶倒。
◎われはロボット/アイザック・アシモフ/ハヤカワ--面白かった!古典だけどちっとも古く感じないし、近頃の閉塞的なSFより読んでて楽しい。従順でけなげなロボットに対して人間のエゴや欲望の禍々しいこと。作者の文明観も一読に値する。50年前にグローバリズムを予見してるのも驚き。ロビイ可愛い。

ファンタジア

『ファンタジアと発明を利用する方法である想像力は、形成されては絶えず変化しつづける。
この想像力は機敏で柔軟な知性を必要とする。
つまり、いかなる種類の先入観からも開放された精神、
どんな場合にも自分のためになることなら何でも学び取ろうとする精神、
より適切な意見に出会ったならば自分の意見を修正できるような精神を必要とするのである。
したがって、想像力のある個人とは、絶え間なく進化しつづけるのであり、
その想像力の可能性は、あらゆる分野において、絶えず新しい知識を取り入れ、
そして知識を広げつづけることから生まれる。
想像力を欠いた人とは不完全な人であり、
そういった人の考え方は、目の前に立ちはだかるさまざまな問題に立ち向かえず、
おそらくいつも想像力のある誰かに助けを求めなければならないだろう。 ‥
想像力のある人は、常に共同体から文化を受け取り、そして与え、共同体とともに成長する。
想像力のない人は、だいたい個人主義者で、
頑なに自分の意見を他の個人主義者のそれと対立させようとする。
個人的問題よりも社会的問題に従事するほうがずっと正しい。
社会的問題は集合体に関わるものであり、これまでも、そしてこれからも存在しつづける。
集合体の文化的成長は、個人としてのわれわれに、
つまり、われわれが集合体に与えるものにかかっている。
われわれは集合体そのものなのだ。』

ブルーノ・ムナーリ(Bruno Munari) 「ファンタジア(Fantasia)」より

ブルーノ・ムナーリはイタリアの美術家で、グラフィックデザインやプロダクトデザイン、彫刻、絵本など多彩な活動をした人。優れた教育者でもあったそうだ。ムナーリの絵本を探していたのだけどたまたまこの本を見つけ、最初は翻訳物特有のとっつき難い文章に苦労したけど読み進んでいくうちに大変感銘を受けた。かといって内容を説明するのは難しい、何度も読み返しているけどまだまだ理解できていない。人類の創造活動の元になっている自由な着想や突飛な思い付きをする能力をムナーリはファンタジアと名づけた。ファンタジアと想像力、発明、創造力を自由に働かせ活用させてクリエイティブになるにはどうすればよいのかを、多数の美術品や写真やプロダクトを実例として引用しながら解りやすく解説してゆく。クリエイティブになるというのは単に芸術や創造の分野の専門家になることではない。日常生活を人生を豊かに、幸福なものにするために重要なヒントなのだと思う。そのことについて書いているのが上の文章。深く感動したこの一文を自分の覚書として上に写した。特に「想像力を欠いた人とは」以下の文は昨今の犯罪を思い浮かべて感じるところがある。

怖い絵

怖い絵」という本がとても面白かった。あまり面白かったので続編もすぐ借りてきて読んだ。
名画に潜む謎や描かれた時代背景を丁寧に解き明かし、絵の成立状況を細部まで想像し、すると炙り出されてくる恐怖。単純な恐怖だけでなく時代の闇や人間存在の深奥にある恐さなどが、思いがけない形で絵に表れていたり逆に全く欠落していたり、その”欠落”も怖いということがわかる。作者の専門である西洋史の学識を縦横に用い、豊富な想像力を動員して、絵の背後にある物語を一幕の劇のごとく生き生きと見せてくれる。そうやって作者によって展開された名画はもはや何も知らないで観ていた単なる絵ではなくなっている。中でも断頭台に向かうマリー・アントワネットのスケッチや、グリューネヴァルト「磔刑のキリスト」は圧巻だ。数本の線でさっと描かれただけの小さなスケッチからなんて深く、多くを読み取るのだろう。もちろん作者は西洋史の専門家だけれど、それを差し引いても絵に対する集中力、疑問や興味を深く突き詰めてゆくために駆使する想像力には感心させられる。名画とは小説のように映画の場面のようにあるいはマンガのように、読み込んだり続きやオチを考えたりすることができるものなのだ、それは私たちが感性をフルに働かせて絵に向き合うことで初めて可能になる。ということを、教えてもらったように思った。

私の考える怖い絵ってなんだろう?(前にここに書いたクノップフ「見捨てられた町」も挙がっていたけれど。)しばらく考えてジェイムズ・アンソールの仮面の絵、それとイヴ・タンギーの海底の異形な細胞みたいな絵が思い浮かんだ。どちらもとても怖くて、とても好きな画家。

ジェイムズ・アンソール
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イヴ・タンギー
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マザーグース

久しぶりにマザーグースが読みたくなって近所の図書館へ行った。子供のとき家にあった谷川俊太郎訳/堀内誠一画の5冊組があったので懐かしくて借りたけど、もう1冊別のマザーグースがありそれも借りてみたら、大変に楽しい本だった。もう絶版になっているようだ。

「マザーグース」アイオーナ・オーピー編(北村太郎訳)1991年パルコ出版


マザーグース研究者のオーピー夫妻は、長年かけて英語圏から膨大な数の伝承歌を収集・記録してきた。(「マザーグース」という呼び方をするのは日本と米だけで、英国では「Nursery Rhymes(伝承歌謡、伝承童謡)」というそうだ。)未亡人となったアイオーナさんはそれらを後学のための資料としてケンブリッジ(?)図書館に永久保存したいと願い、その費用捻出の一助にと出版された本だそう。全編きれいなイラストと歌で構成されていて、特にこれまであまり出版されたことのない歌が集められている。絵は50人以上もの現代英国の有名イラストレーターが担当している。小さな子供にも親しみやすいような歌がたくさんあって、残酷なものやバッドエンディングなもの(マザーグースらしいダークな歌)はほとんど無かった。その変わり明るく楽しくナンセンスな歌と素晴らしいたくさんのイラストをつらつら眺めていると、微笑ましく愉快な気分になれる素敵な本。イギリス人の絵はアメリカのようなどぎついほどのデフォルメをせず、あっさりしている感じで色使いも繊細で美しい。水彩画の伝統のある国らしく透明感があって、日本人の感覚にもすんなりくるように感じる。お気に入りの絵をいくつか載せておこう。

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犬がとても表情たっぷりに可愛く描けてて思わず顔がゆるんでしまう。切れてしまってるけど、四隅にいる2匹ずつ組んで踊る犬もすっごく可愛い。

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このちょっととぼけた味のある絵、一目見て好きになった。日曜日にやっと新しい上着を着られたチャーリーが喜んでて微笑ましい。日曜以外の日に冴えない顔していて可笑しい。

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ビカースタッフさんが歩いている海辺が、砂利だらけで流木とか転がってて「きっとイギリスの浜辺ってこうなんだろうなぁ」と思った。短い歌に雰囲気のある絵で余韻が残る詩になっている。画家の想像力って凄いと思う。

私が一番大好きな、冒頭にあるサラ・ミッダのイラスト。なんて愛らしくて、なんてファンタジック。
mg5.jpg

参考サイト:オーピー夫妻とマザーグース
おまけ:TOTO--Georgie Porgie(youtube)
(Georgie Porgieはマザーグース中の有名な歌。詩をそのままサビの歌詞にした名曲。)

妙味絶佳 ぶっかけ飯宣言

最近嬉しくなってしまう本を見つけた。ぶっかけ飯の快感-A級保存版のBCD級グルメ」 。著者は発酵学教授こと小泉武夫先生。爽快な文章の一端をご紹介すると、
「ご飯の上に竹串を外した一本を載せ、それを前歯で3分の1くらいの量をちぎって口に入れ、噛むと、まず油でカラッと揚がった香ばしいシソの葉の臭いが、鼻腔にフワッと押し寄せてきます。その直後、口の中には重厚な味噌の味ととうがらしのピリ辛が拡散し、それが揚げ油からきたコクみと出会ってマイルドになります。すかさずそこにご飯を追っかけて入れてやると、今度はとたんにご飯からの上品な甘みと混じり合い、口の中はまことにもって妙味絶佳の世界に染められてしまうのです」。
なんたる臨場感たっぷりの描写。湧き上がるごはんの湯気、料理の香り、カッカッとかき込む時に茶碗に当たる箸の音まで聴こえてきそう。食についてのエッセイを読むのは好きだけど、美味しくものを食べる喜び・幸福がこれほどまで真に迫って感じられた本は初めてだ。あ、ここで論じられている料理は「紫蘇巻き(味噌を紫蘇の葉に巻き込んで油で炒める)です。他の料理も全て、なんでもない、日本人ならどこでも誰でも味わうことが可能な、低価格で出来る、庶民的、しかし奥の深~い、B級グルメの数々だ。例えばサバ水煮缶を使った鍋、餃子丼、ベーコン茶漬け、納豆カレー、サメの煮付けなどなど全て著者が自分で考案し、工夫し作り、自分も楽しみ人にも振舞う料理。つまり小泉先生流料理のレシピ本なのだ。
第一章の一番最初の文章タイトルが「猫飯こそ食味の悟り」。ああ猫飯!この一文を見ただけで思いましたね、この方こそ私の同士だ!と。夜中に布団の中で読みながらクスクスわはははと笑っていたら家族に「何読んでるの」と訊かれ、料理の本と言ったら驚いていた。だってこんな傑作な本、嬉しくって笑わずにいられようか。ついでに夜中というのにお腹が空いて困ったけど。
元から私は小泉先生大好きだ。お話がとっても面白いしわかりやすい。深く考えれば豊かな含蓄がありまた現代社会への鋭い批判も読み取ることが出来るだろうけど、何より面白いからお話を聴くのが楽しいし、表情豊かな話し振りから伺えるお人柄も魅力的。生きる喜びに溢れた方だなぁと。そしてこの本を読んで、本当の傑物だなぁと感じ入ったのでありました。何しろご自身を「味覚人飛行物体」、自ら包丁を奮う厨房を「食魔亭」と名づけておられるのだ。レシピの数々も”食べるのが好きなオヤジの独りよがり素人料理”なんかでは決して無い。専門家としての豊かな経験(もちろん魚の捌きなんかはプロ級)と生来の食道楽が合体しての、アイデアに富みつつ合理的なメニューばかりである。度々他の人にも振舞っていつも大いに評判が良いそうだ。

私も以前汁かけご飯が好きだと書いた。でもそう書くのは(女性として)ちょっと恥ずかしい部分もあったりした。だいたい女同士の食べ物に関する会話で「味噌汁って冷たくなってからが美味しいよねー」「それを温かいご飯にかけて、上にたくあんとチーズと昆布の佃煮を乗っけてグルグルかき混ぜてかっこむと美味しいよねー」みたいには、ぜーっったいにならない。どころか「そんなこと外で言うんじゃありません!!」と母親から口止めを言い渡されたり。猫飯ライクにいろんな食べ物を混ぜて乗っけて食べると旨い、と堂々書いているのは100%男性だ。”女の本物志向”ってのは、本物イコール高級品だと勘違いしてるフシがなきにしもあらず。自分もそんなわけわかんない思想に侵されてるフシがなきにしもあらず。
でも小泉武夫先生のご本を読んで、「そうよそーなのよ!誰がなんと言おうとぶっかけ飯は旨いんだぜ!!」と強く思ったので、改めてここでぶっかけ飯宣言したろーじゃないという所存である。簡単だけど安直じゃない、安価だけどこだわりあり。高いものにしか美食が存在しないと思うことが間違いなのだ。食味の道は深く、しかれども決して手の届かない世界のものではない。日々の生活の中にこそ賢い工夫が、奥ゆかしい知恵が生かされるべきものだ。とある人気料理作家のレシピを見たら、パンケーキひとつにしても小麦粉は「出来るだけ無漂白」で、シロップは「出来るだけ本物のメープルシロップ」で、バターは「出来るだけ純正バター」で、だって。そりゃー美味しいに決まってるじゃん!!(怒)それより教え子が美味しい地酒を贈って、どんなに先生喜んだことだろうと伺ってみたら怒っていて、曰く「あんな美味しい酒をもらったら、毎日晩酌している安酒が飲めたものではなくなってしまうではないか」と言った内田百の方が、よほど共感できるのだ。そう、いくら美味しい上等な料理でも、ハレのご馳走ばかりにしかならないのはアウト。何でもない食べ物にこそ奥深い味わいが潜んでいる、これを見つけ出すのが食の醍醐味であり楽しみなのです。

魔の海

魔の海域「サルガッソ」を衛星で初撮影
Envisat captures first image of Sargassum from space
サルガッソー。その名をまさかYahooで見かけるとは思わなかった。W・H・ホジスン「夜の声」に出てくる、帆船を飲み込む魔の海域だ。
「夜の声」は愛読書のひとつ。魔の海で出会う異形な生物、とうに消え去ったはずの古代の船、奇怪な事件…昏い海で起こるさまざまな不思議に読むたびに魅せられ、波と櫓の音しかしない夜の海原の無限の恐怖を想像した。でもいわゆるバミューダトライアングルとは違って、一世紀前の帆船にとってだけ魔の海域だったのかなとも思っていたので、ホジスンが描写したのと同じく現在でも海草が浮遊する天然の難所であり、今なお小型船舶にとっては脅威の海域であると知って、なぜだかとても満足したのだった。

ちょうど昨日読み終わったロベール・ド・ラ・クロワ「海洋奇譚集」も、たいへんに怖く恐ろしく、興味深い本だった。古くは1880年代から大戦中の1940年頃までの、実際に起こった異常な海難事件の数々を、当時の記録を元にノンフィクション的に再構成している。静かな海で痕跡も残さず消えた最新の船、危機一髪で危険を察知する船長の特殊能力、謎と共に消えた灯台守etc…。実話であるからこそ海の恐怖がいっそう惻々と迫ってくるよう。すごいと思うのは凄まじい恐怖の体験をした後でも、ほとんどの海の男たちが再び海に戻っていくことだ。

ところで子供の頃読んだ、”海の不思議で怖い実話”の中にとても印象的な話があって、鯨に飲み込まれて救助された船乗りが、鯨の体内で色素を溶かされて「体の半分が透明になってしまった」というものだった。子供の時は無邪気に「透明人間ていたんだ!スゲー!!」と思っていたけど、考えてみたら色素が無くなったら白くなるだけで透明にはならないなと、大人になって気がついた。実話だって言われたら子供は信じるよねぇ。。

付記:↑は「マルセイユの透明人間」という有名なエピソードらしい。
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日本の灯台



「日本の灯台 The Lighthouses of Japan」 山崎猛 写真集

昨夏能取岬に行った時にたまたま灯台の公開日で、入り口のところにテーブルを持ち出してこの写真集が展示してあった。その時は気がつかなかったけど、今日図書館でよく見たら表紙が能取岬灯台ではないか!だから展示してあったのね。それにしてもこの表紙写真は素晴らしい。流氷迫る岬、厳しい自然の中に神々しいばかりに立つ灯台の存在感が圧倒的だ。

撮影者の山崎猛氏は1937年北海道に生まれ育ち、現在も斜里にお住まいの由。写真集には日本中の名灯台が多数収められているが、山崎氏が強い思い入れをお持ちなのはやはり北海道オホーツクの灯台、特に能取岬灯台だそうで、写真集のトップを切って11ページにわたり四季折々の能取の写真が飾られている。能取岬と灯台をこよなく愛する私としても、誇らしいような嬉しさだ。その能取岬灯台に寄せられた山崎氏の文章が感動的なので、ここに写させていただく。
「オホーツク海に宇宙の神が舞い降りて、座る大地としては能取岬が最も相応しい。これほど四季に自然を謳い、華麗な色彩で宙と大地と海が見事に調和する岬を私は他に知らない。夏のオホーツクブルーの海面に、冬の流氷に閉ざされた海に向かい合い、指揮者のように立つ灯台に季節の喝采が降り注ぐ。この岬にはヴィヴァルディの協奏曲集『四季』作品8がよく似合う。冬から春へ、朝から夜へ、終わりのない響きが岬を包み遊んでいる。全国に点在する『日本の灯台』のプロローグとして、能取岬灯台の四季折々、千変万化の表情をここに紹介する。」
能取岬の魅力を完璧に伝える思いのこもった一文。私も折に触れて何度も訪れているけれど、写真によって初めて気づかされた魅力的な表情がいくつもあった。先日行ったばかりだけど、また行きたくなった。

P2090008.jpg

もちろん能取岬だけでなく、おそらく海上保安庁の人しか近づけないような場所にある灯台も航空写真を駆使して撮っていたり、同じポイントで季節を変えて写したり、貴重な記録だと思う。日本の海辺が様々に奥深い豊かな表情を持っていることに気づかされる。2万円と高価だけれども逆に安直に出来ていないのが良い。いつか所蔵したい写真集。
プロフィール

胡舟

Author:胡舟
北海道オホーツクに在住し北の海のクラフトを作っています。

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