有元利夫


「雲のアルルカン」1980年

折に触れて有元利夫の画集を眺める。格調ある静謐な空間、落ち着いた深い色の階調に、心が静められていく気持ちがする。とりわけ色の美しさに惹かれる。温かな、繊細な、気品のある色。

出会いがいつだったのか、大学生か、あるいは社会人になりたての頃だったかも。おそらく逝去されて間もない頃ではないかと思う。当時回顧展が多く開かれただろうし、何気なく立ち寄った画廊でリトグラフや小品を目にする機会も多かった気がする。


「光る箱」1982年

有元さんの絵に登場する、いくつかのモチーフが好きだ。たとえば上の絵で、放射する線の束として表された、光のモチーフ。昔の仮面劇でも催されそうな古い舞台。音符みたいに空間に軽やかに浮かぶ赤い玉。アンティークの書割のような雲。はらはらと落ちる花びら。どれもそっとそこにあって、大げさに主張するのではないけど、重要な脇役みたいなモノたち。
人物(ほとんどが女性)もモノたちも色も、画面の中のすべてが心地よい調和と諧調を保ち、低い旋律を奏でている。古い心地の良い部屋でリュートかなにかの古楽曲を聴いているような感じ。穏やかだけど気品と威厳のある昔風の老婦人のような。心地よく懐かしい、ちょっと遠くなった記憶のような感覚。

享年38歳。この典雅な音楽的な世界が新しい展開をするとしたら、どんな風になっていったのだろう。画集をめくりながらいつも考える。
プロフィール

胡舟

Author:胡舟
北海道オホーツクに在住し北の海のクラフトを作っています。

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