表紙絵のアリス


私が持っている「不思議の国のアリス」と「鏡の国のアリス」。共に昭和50年代の角川文庫出版。数年前にネットの中古書サービスで購入した。欲しい本を登録しておくと全国の古書店から探して連絡してくれるもので、1冊千円ほど取(ぼ?)られた記憶(苦笑)。子供時代から愛読していた本があまりにボロボロになったので、同じものを探して購入したのだった。
元持っていた本はたしか昭和40~3年くらいの出版だった。多分読み聞かせにでも使うつもりで母が買って忘れていたのだろう。普段あまり入らない部屋の本棚の隅で小学生の私が見つけたときは、すでに日焼けして茶色くなっていた。
現在の角川文庫は装丁も訳者も変わっていて、前のは絶版になっている。今やアリスは版元も訳者も多種多様な版が出ているが、どうしてもこのアリスじゃないと嫌だった。表紙絵がとても気に入っているからだ。「カバー・広みさお」とあり、検索しても角川のアリスの表紙を描いたことしかわからなかった。(広みさおさんについての情報をご存知でしたら教えてください。)面白いと思うのは鏡の国の方。読んだことがあればわかると思うけど、お話には魔女もフクロウも出てこない。もしかしたら本文は読まないまま、大まかなあらすじだけを元に絵を描いたのではないかしら。その「本文と食い違っていること」が、逆にアリス的で面白いと思うのだ。子供の絵のようなのびのびした雰囲気も好もしい。
現在の様にあらゆる出版社からアリスが出版される前の黎明期に、草分け的に出版したのが角川文庫だ。訳も今読むとところどころ古めかしい言葉がある。でも私は現代語訳よりこちらの方がぴったりくる。18世紀イギリスのそこそこ良い家庭のお嬢さんであるアリスは、「7歳と9ヶ月」という年齢にしては驚くほど利発で空想力豊かで、時には母性的、時にはレディ、どんなに揚げ足を取られようがトリッキーな要求をされようが、生真面目におっとりと不思議の世界を進んでいく。このイギリス人らしい古めかしい生真面目さとお行儀のよさの中の子供っぽさ、どこか現実ばなれした可笑しさは、むしろちょっと時代遅れの古風な言い回しの中の方が生き生きして感じられるように思う。