「京都仁和寺に花を生ける~ダニエル・オスト」を見る

3日衛星放送で「京都仁和寺に花を生ける~ダニエル・オスト」を見た。
2004年11月に京都仁和寺で行われたダニエル・オスト展のメイキングの模様を追った番組だ。
オスト氏はベルギー生まれの世界的なフラワーアーチスト。私も名前しか知らなかったが、その創作姿勢や考え方を見てとても共感する部分が多かった。

花を生けるというと生け花みたいだけど、オストさんの創作は生きた植物を素材とした純粋な造形・空間芸術だと思った。空間との調和やコラボレーションを大切にし、全体でひとつの宇宙を構築している。個々の作品はとてもモダンで現代彫刻のようだし、全体で眺めればインスタレーションか舞台美術のようでもある。私の大好きなアンディ・ゴールズワージーにも通じるように思う。今回の京都での試みは、これらをひっくるめた現代アートのひとつの金字塔ではないかと感じた。それくらいインパクトがあったし感動した。

特に共感したのは、オストさんが花を心からいとおしむ気持ちを持っていること。「創作によって私は花の命を奪ってしまう。」だからこそ妥協はしない、花も枯葉の色も実も、最大限にその美しさを引き出そうとする。自然の素材はとても個性が強くて簡単にはこちらの思うようになってくれない。素材とじっくり向き合い、対話することによってのみ、そのものが持つ魅力の秘密が感じられるようになるのだと思う。花を命を持ったものと意識するからこその徹底的な制作、このあたりがオストさんの中心思想ではないかと思った。

まず花器を集めるのだが、仁和寺という名刹を舞台にすることを意識して歴史ある和室に合うよう和紙、漆器、陶器、竹細工などのオリジナル花器を京の名工たちに依頼して作ってもらう。全てオストさん自身がイメージを伝え作家たちと話し合って手配していた。そして集まった花器の数々はうわぁと思うような名器ばかり。土のこぼれ出しそうなゴリゴリした大きな焼き締めの壷、優美で緊張感のある線を持ったゆったり大ぶりの漆器、土壁のような風合い(土にしか見えない!)の手漉き和紙などどれも個性が強く、同時に息を呑むような見事な仕事。こんなものと取り合わせるなんて私だったら逃げ出したくなるだろう(笑)。京都と日本文化への深い尊敬の念、同時に真正面から対峙してやろうというクリエイターの心意気を感じた。それから本国ベルギーから取り寄せたという不思議な有機的な形の照明も面白かった。水の底から浮き上がるあぶくみたいな形をしていて、石庭にたくさん並べてなんとも不思議かつモダンな空間作りに効果を発揮していた。こういう良いものを見ると、プロダクトデザインて意義のあるものだったのだなぁと再認識したりする。

作品はどれも素晴らしかった。ウンリュウヤナギを巻きつけて作った緑色の巨大なポールオブジェが石庭の中に立ち上がり、廊下には赤いヤナギの枝が天井から何百本となく吊るされている。それらは効果的な照明によって薄暗い中に浮かび上がる。(作品展の公開は夕方ライトアップされた中で行われた。)また随所に菊の花が効果的に使われている。玄関に、廊下に、和室の中に。各花器の作家に尊敬を払い花器の性格を活かしきった使い方も、実に見事だと思った。
とりわけ感銘を受けたのはこの菊の使い方だ。京都で花材を集める中で、ナントカ大臣賞を何度となく受けたという菊栽培家をたずねて見事な菊の温室を案内されるのだが、あいにく花の盛りが過ぎていてもう少し容色が落ちかかっている。(それでも見事に大人の頭ほどもある花だけど)オストさんは「枯れていくのも命、自然の一部です。」と言ってその花を使う。いったいどう使うのだろうと楽しみに見ていたのだが、なんと和室に枯葉を敷き詰め、その上に焼き物の大きな卵がたくさん転がしてある。その土色の割れた卵の殻の中から、真っ白な菊の花がのぞいているだ。度肝を抜かれるとともに、私たちの感性にもぴったり来る素晴らしい侘び寂びの表現だと思った。侘び寂びだけれど造形物そのものは決して枯れていない。菊の生き物のような花びらの動き、妖しいまでの生命力が力強いメッセージを送ってきている。侘びを感じさせつつも日本的な「彼岸の思想」より、「今ここにある生命」を感じさせる。文句なく感動した。
あまりに日本的すぎ身近すぎる菊の花を、こんな風に見せられるのは彼が先入観からフリーだからなのだろう。それにしてもなんと素晴らしい感性で造型感覚だろう。ただもう驚きの連続。

最後にオストさんが語っていた言葉もよかった。
「出来上がったものをふりかえることはしません。出来た瞬間それは過去のものとなるから。」
「また谷へ沈んでいきます、次の山に登るために。」
プロフィール

胡舟

Author:胡舟
北海道オホーツクに在住し北の海のクラフトを作っています。

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