GROTTA DEL ISOLA BELLA

その小島は入り江から切り離されて 静かに海中に佇み
芳しいオリーブ色の潮風と エメラルドの色した水に守られていた
浜辺から見る姿は巨大な鯨か さながら大きな船のように見えた

島の海原に向いた側の崖には 洞窟があった
洞窟は言い伝えを持っていた
昔 人の世を厭うた貴人が小島に移り住み
洞窟に女神を祀ったのだという
住む人が絶えた今も女神は洞窟に居まし続け
夜と昼が溶け合う薄明の時にだけ 切なる願いをお聞きになると

黄昏の太陽が石榴色に空を染め 
その輝かしい色が次第に紫に溶けゆく宵闇のころ
一艘の小舟が入り江を離れ 小島へと静かに進む
うち乗るはヴェールに面を隠したうら若い乙女
そっと洞窟の入り口に小舟を繋いで 岩にあがる
素足を波に洗わせながら 蝋燭を手にして
洞窟の奥へ歩みを進める
緊張と秘めた想いとで その目は火のように燃えていた

やがて奥に行き着くと 薄闇の中に祭壇が浮かび上がった
仄かな光を受けてきらめく 水晶に柘榴石 瑪瑙や真珠
貝殻と珊瑚とで飾った台座の中央に立てるは月の女神の像
乙女は膝を落とし じっと長い祈りを捧げた
やがて厳かな声が彼女の胸に染み込んできた

 「あなたの目が見たものを信じてはいけない
  目を閉じなさい その暗闇の中に真実を見るのです」

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北の海のクラフトを作っています 胡舟クラフト
プロフィール

胡舟

Author:胡舟
北海道オホーツクに在住し北の海のクラフトを作っています。

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