BLUE MONK



永久欠番というのがある。不世出の名選手を称えてその選手がつけていた背番号を以後使わないようにするもの。前に戯れに「永久欠演」というのを考えてみたことがあった。名曲の名演奏を称えて、以後その曲を誰もカヴァーしないことにするのだ。例えばMY FAVORITE THINGSはジョン・コルトレーンで欠演。BODY AND SOULはビリー・ホリディで欠演(欠歌)という具合。だけど問題があって、生まれたとたんに当の作曲者の名演奏によって欠演になってしまう曲が続出するだろうってことだ。例えばWALTZ FOR DEBBYはビル・エヴァンスによって作曲・演奏された瞬間に永久欠演でしょう。Moanin'はアート・ブレーキー&ジャズ・メッセンジャーズしか演奏できない。そしてその最たるものがセロニアス・モンクの「BLUE MONK」だと思う。

BLUE MONKは誰でも一度くらいは耳にしてるとてもポピュラーな曲だ。私は密かに”デパートミュージック”と呼んでるけど、バンド演奏バージョンがよくデパートやレストランなんかで流れている。だからメロディだけは早くから知っていて、イージーリスニングのひとつくらいに思っていた。
学生のとき聴いた「ALONE IN SAN FRANCISCO」は私にとってのセロニアス・モンク入門になったアルバムで、今でもモンクの中では一番好んで聴く。特に当時「うおぉ☆カッコいい!」と大感動したのが、モンクのソロピアノによるBLUE MONKだった。まさに目ならぬ耳からウロコ、この曲の印象が180度変わった経験だった。

どうやらモンク自身が後に演奏したバンド版の方が一般に有名な印象だけど、この曲のソウルというか核心は、ソロピアノの方にこそ遺憾なく現れていると思う。軽快なメロディはJAZZYなビート感があって、この絶妙なビート感はバンド演奏では出せないのだ。(日本人にはほとんど真似の出来ないリズム感!私は無謀にも耳コピで弾いてみたけど、どうやってもあのリズムを真似ることは不可能だった。)”基本のコードでシンプルなメロディ”の繰り返しなので、絶妙なリズムやモンクの息遣いがそのまま音に変化したようなタッチが力強く響いてくる。私は何よりも、曲が持っている孤独感に強く惹かれる。じっと聴いていると浮かんでくる風景はアメリカの下町の石畳。早朝の誰もいない街角を昨夜のほろ酔いが残った人が歩いてくる。自分で自分を面白がっているみたいに、時々軽いステップを踏んだりメロディを口ずさんでいる。シンとした朝の冷たい石畳に靴音が響く。暗くも湿ってもいない、明るく乾いた孤独。この曲は孤高のピアニスト・セロニアス・モンクその人自身かもしれない。JAZZであると同時にbluesも強く感じさせる演奏。

他の収録曲でも「Ruby, My Dear」や「Pannonica」が好き。ソロアルバムでは他にも「THELONIOUS HIMSELF」「SOLO MONK」も持っているけど、それぞれ違った雰囲気でモンクの別の面を垣間見るようだ。異論もあるだろうけど私はモンクはソロが一番好きだ。
プロフィール

胡舟

Author:胡舟
北海道オホーツクに在住し北の海のクラフトを作っています。

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