野又穣の架空建築

例えば廃墟のようなセメント工場とか、青空に唐突に聳えている焼却施設の白い煙突とか、最新式の風力発電機とかを見ると、なぜか現実離れのしてるような、奇妙な感覚にとらわれる。野又穣の描く架空建築はそれをうんと増幅させたような、シュールな不思議世界だ。
昔立ち寄った西武池袋のギャラリーで、入り口のポスターに惹かれて何気なく入ってみたのが野又穣との出会いだった。こちらのプロフィールで見ると93年に西武池袋で「NOWHERE~世界の外に立つ世界」開催とあるので、この頃かもしれない。観たとたんビビッときた。それから何度か都内で作品展を観た。
不思議なのにどこかで見たことがあるような気がするのは、野又さんの建築物が実際に見たことがありそうなパーツで構成されているからだと思う。バルーンや煙突、プロペラなどはとてもリアルだし、コンクリートの感じや錆びた鉄骨の感じとかも、実際ブツがそこにありそうなまでにリアル。でも良く見ると微妙に”野又的”不思議な形態で、そこにやられてしまうのだ。曖昧なところが無く徹底的に描きこまれている故に存在感がある。幻想的だけど夢幻的じゃない。地上のどこかに本当にこんな建築が存在していてもおかしくなさそう。「イバラード」を擁する井上直久とはある意味好対照かもしれない。イバラードの世界観も惹かれるけど、点描みたいな描き方が目がチラチラするようでもうひとつ入り込めない。私はこういうカッチリと描き込まれた、造形的な、乾いた空気感のある不可思議さがとても好きだ。
一度同じ西武池袋のギャラリーでご本人をお見かけしたことがある。白いシャツに黒いパンツ(おそらくデザイナーもの)で黒ぶちメガネ、ザ・アーチストという雰囲気(ごめんなさい 笑)で、その時ギャラリーは私ひとりだったけど、チラ見しただけで話しかけたりできなかった。上のサイトの写真を拝見してて当時の雰囲気を思い出した。