デザイナー 夢二



伊香保の竹久夢二記念館で求めた、お気に入りの絵葉書。ちょっとチャップリンみたいな夢二その人をも思わせるような男性の表情がなんか好き。なよっと体をくねらせた雰囲気が、いかにもロマンチックな大正という時代の男性、という感じがする。明治の頃だったらこういう男の人を描くなんて、きっと考えられなかったろう。

竹久夢二に対して漠然と持っていた印象は、夢二記念館訪問で一変した。夢二が残した大量のカット絵やデザイン画を見て、優れてモダン、実に洗練された感覚に驚いた。「今でも全然いけてる!」いわゆる夢二式美人を創り出した大正ロマンチシズムの画家、という通り一遍の認識しか持っていなかったのが、その時から私にとって「リスペクトするデザイナー・夢二」になった。



最近まったく同じ考え方の本を見つけた。「夢二デザイン」(ピエブックス・谷口朋子)。書籍の装丁や雑誌・楽譜などの表紙画、広告デザインの仕事、千代紙や半襟など日常品のデザインなど、夢二のデザインをたくさん見ることが出来て興味深かった。柳腰の美人画よりも、私は夢二のデザイン画の方が、特に西洋風を意識したデザインが好きだ。(一番上の絵葉書も歌劇「椿姫」の楽譜の扉絵で、女性は西洋雑誌の絵を元に描いているけど、男性は夢二のオリジナル。)

夢二の絵はまったくの独学。元は詩人志望で、最初は生活の足しに得意の絵の腕を生かして絵葉書を作って売ったりしていた。そのうち詩人の道を諦め、代わりに「絵による詩」を作ろうと画業を主軸に据えた。女性のファッションや生活小物にまで一家言持つほどの独自の美意識とハイセンスの持ち主だったけれど、絵の仕事に新時代の雰囲気を取り入れようと西洋のファッション雑誌などで熱心に研究したらしい。絵本の挿絵から文学書の装丁まで幅広くこなしつつ、それぞれに対して常に新鮮な独自の工夫を忘れなかったことがよくわかる。特に色へのこだわりが強く、色彩感覚の鋭さは今でもぜひ参考にしたいくらい。一切定規を使わずフリーハンドで描いたという独特のレタリングも、なんともお洒落。最後まで向上心と、そしてロマンチシズムを失わなかった人なのだと思う。中学を中退したり高校も中退したりで劣等生なのだけど、生涯自分の感性を信じてセンスを磨き続け、日本人の心に残るアーティストとなった。アカデミズムに拠らず、仕事で実作をこなす中で研究を重ねて自分のスタイルを築き上げていったところも、大きく共感する点だ。



プロフィール

胡舟

Author:胡舟
北海道オホーツクに在住し北の海のクラフトを作っています。

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