クローバー
幸せな時間…と考えると、浮かんでくる情景がある。クローバーの茂みの中に座っている子供の私。真夏で、辺りの空気を震わすようにセミが鳴いている。セミの声の外は何の音も聴こえない。私は湿った草の上に座り込んで、クローバーをむしって下手くそに編んだりしながら、ひとりで遊んでいる。むせるような夏草の臭いと降りしきる蝉時雨を感じながら。
房総半島南端の田舎町に両親が小さな土地を持っていて、子供のときは夏休みを毎年そこで家族一緒に過ごした。細い山道を草をかき分けながら登っていくと少し開けた高台があって、うちの小屋があった。そこからは海がよく見えた。
小屋へ向かう山道の途中に、私の気に入っている場所があった。山道を少し逸れたところに、クローバーの絨毯で覆われた小さな空き地があったのだ。入り口が草の茂みでわかり難いのも、隠れ家みたいで良かった。その秘密の場所に入り込んで、クローバーの中に座って過ごすのが好きだった。草をむしったりするくらいで何をするでもなかったけど、そこにいるとなんとなく幸福だった。海で泳いだり蛍を取ったりトンボを追いかけたり、遊びなら毎日飽きるほどしていた、そんな夏の日々にふと倦んで、静かな緑の隠れ家にひとりでいると、今自分はここでこうしているんだなぁ、という感覚がこみ上げてきたりした。
そんな体験があってか今でもクローバーが好きで、庭にたくさん生えている。雑草なのを取らずにいたら、すっかり増えて芝生代わりになってしまった。こんもりした葉の間から白や薄ピンクの花が立ち上がるのを見ると、ふっと微かな幸福感をおぼえる。
房総半島南端の田舎町に両親が小さな土地を持っていて、子供のときは夏休みを毎年そこで家族一緒に過ごした。細い山道を草をかき分けながら登っていくと少し開けた高台があって、うちの小屋があった。そこからは海がよく見えた。
小屋へ向かう山道の途中に、私の気に入っている場所があった。山道を少し逸れたところに、クローバーの絨毯で覆われた小さな空き地があったのだ。入り口が草の茂みでわかり難いのも、隠れ家みたいで良かった。その秘密の場所に入り込んで、クローバーの中に座って過ごすのが好きだった。草をむしったりするくらいで何をするでもなかったけど、そこにいるとなんとなく幸福だった。海で泳いだり蛍を取ったりトンボを追いかけたり、遊びなら毎日飽きるほどしていた、そんな夏の日々にふと倦んで、静かな緑の隠れ家にひとりでいると、今自分はここでこうしているんだなぁ、という感覚がこみ上げてきたりした。
そんな体験があってか今でもクローバーが好きで、庭にたくさん生えている。雑草なのを取らずにいたら、すっかり増えて芝生代わりになってしまった。こんもりした葉の間から白や薄ピンクの花が立ち上がるのを見ると、ふっと微かな幸福感をおぼえる。