とおいところ


まど・みちお画集「とおいところ」より

4-5年前に日曜美術館でまど・みちおの抽象画を見て衝撃を受けた。それは文字通りの「ショック」で、しばらくその感覚は後を引いていた。今でも画集を開くと、ふと意識が眼前の絵を離れて、遠い世界へ一瞬ふわっと旅してるような気持ちになる。

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名前は知っていたけど、「ぞうさん」などの童謡を作詞した詩人だとその時初めて認識した。創作風景では、白髪のおじいさんが紙に顔をくっつけるようにして、真剣な面持ちで何か描いていた。画具を持つその手もシワシワだった。世界に全くただ独りでいるかのような、シンと澄んだ無心と集中を示す横顔に引き込まれた。
ナレーションによると「まどさんは画材はボールペンやクレヨンなど、身近なものを何でも使う。一心にどんどん描いていると紙が破れることがあり、そんな時は裏から紙を張って、また描き足していく。そうして夢中になっていて気づくと夜が明けていることがある」。
記憶が正確ではないかもしれないけど、私はこのナレーションが忘れられない。創作だとか芸術だとかと違う、もっと何かとても本質的なことが語られてる気がする。
人類が始めて洞窟に絵を描いたような、子供が壁などに無邪気に落書きするような。そこに写されているのは過程、解き放たれた感覚の自由な歌や、無心や熱意や祈りの道程であり、そして描かれたものを見て満足している心。旅人が今通ってきた道を振り返り、遥かな景色を望んでしみじみと充足を感じるみたいな。

この抽象画の方法は、まどさんの詩作とも通じているようだ。

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クジャク(絵と詩 まど・みちお)

ひろげたはねの 
まんなかで
クジャクが ふんすいに 
なりました
さらさらさらと
まわりに まいて すてた
ほうせきを 見てください
いま 
やさしい こころの ほかには
なんにも もたないで
うつくしく
やせて 立っています

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まどさんの絵は何重にも色や線が重なっている、そして深々と美しい。重層的だけれども抑制もきいている。ちょっとクレーを思い出しそうだけれど、クレーのように冷たくはない。ほのかな温もりと独特のユーモアのある絵。抽象画であって、同時に詩なのだと思う。
私もこんな風に描いてみたい、作ってみたいと思わせられる。
プロフィール

胡舟

Author:胡舟
北海道オホーツクに在住し北の海のクラフトを作っています。

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