チュルリョーニス~北方の光~

「静寂」1903年

「城のおとぎ話」1909年
セゾン美術館92年のチュルリョーニス展はかなり評判となってカタログは早々に売り切れてしまい、観に行ったときは会場で買うことが出来ず、その後だいぶ経ってからやっと購入した。92年の個展がチュルリョーニス作品の本邦初紹介だったのだけどそれ以降も画集が日本で出版された形跡がなく(展覧会が評判をとったのに奇異なことだ)、セゾンのカタログが現在も日本における唯一の本格画集ということなので大切にしている。(普通のザラっとした紙にカラー印刷されている。それはそれで雰囲気があるけど、背表紙など経年でシミが出てきた。このカタログも現在は入手困難らしい。本格的な画集が刊行されるのを希望。)
本邦初紹介と書いたけど、厳密に言えば「画家としての絵画作品が初紹介」。チュルリョーニスは音楽家でもあり、CDは普通に入手できるようだ。ショパンやグリーグに近いピアノ曲というからモロに私好みだけど、まだ聴いたことは無い。
ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス(Mikalojus Konstantinas Ciurlionis)はリトアニアの音楽家・画家。1875~1911年という世紀末、ロシア革命へと向かう激動の時代を生き36年の生涯に作曲・絵画ともに大量の作品を残した。最期は体と心が重い病に冒され療養所でなくなった。写真には繊細さと神経質、敬虔さ、知性、どこか浮世を離れた遠い世界を見てるかのような眼差しなどが見て取れる。まさしく幻視者の資質に優れた方だったのだろう。さほど遠くない隣国に属するにも関わらず私たちがほとんど何の知識も持たないリトアニアという国は、展示会のあった92年は独立2周年だったそうだ。ふと前サッカー日本代表監督のオシム氏を思った。複雑な歴史を持つ辺境の小国の光と影、私たちの想像も及ばないような苦悩や宿命や知性や様々なものが刻み込まれた重い陰影を持つ顔。
絵は空想と宇宙的な啓示に満ちている。精神的というより霊的な雰囲気、静かで瞑想的な世界。ルドンに似ている気がするけど、ルドンのような夢想的な感じはない。東洋的な感じのする色も落ち着いていてとても美しい。展覧会で一番惹かれたのが「煌きⅡ」という絵だった。ブルーグレーの背景に画面を左右にかけて白い丸い光が数点連なっている。絵というよりそこに光が穿たれているみたいに感じた。
ミカロユス・チュルリョーニス(wiki)

「冬Ⅷ」1907年

「奉献」1909年