秋吉敏子のソロピアノ



秋吉敏子をいつどんなきっかけで知ったのか思い出せない。ぼつぼつジャズを聴きだした中学生あたり?中学生でジャズなんて生意気なって感じだけど、面倒くさがりで流行の音楽にも疎い子が、たまたま習ってたポピュラーピアノの影響で身近だったジャズピアノを聴いていただけだった。でもジョージ・シアリングやオスカー・ピーターソンのアルバムはピアノの先生に借りて聴いたのを覚えているけれど、秋吉敏子は確かに自分のお小遣いで買ったのに最初のきっかけがどうしても思い出せない。ともあれ当時このアルバム「秋吉敏子ソロピアノ」に出会ったことを良かったと思う。その後ずっと私の中で居場所を占めることになったから。

長く廃盤だったのがやっとCD化されて久しぶりに聴いている。(アルバムは実家に置いてきた。)ひとつひとつの音やタッチの感じを、記憶と確かめるように聴く。時の隔たりが存在しなかったごとく、それは頭の中のフレーズとぴったり合わさる。「ああ敏子のピアノの音だ」と思う。長く離れていた仲良しと久しぶりに会って、昨日終わった会話の続きをはじめるみたいに話しだす、そんな感覚。
独特の前のめりに転がるような早弾き、強いけれど決して荒っぽくないタッチは時に夢のように繊細な、時に静謐なメロディを紡ぎ出す。(女性ピアニストに多い、やたら力強さを強調して叩きまくる演奏は好きではない。)不協和音や和声を使ってるところとかとても個性的で大好きだけど、何より惹かれるのは「孤高の佇まい」のようなもの。それは毅然とした大人の強さと、少女の夢の真っ直ぐさとを併せ持っていて彼女独特の魅力を作っている。アルバムジャケットの肖像を見てその時秋吉さんの実像は知らなかったけど、意志の強そうで繊細そうな美しい女(ひと)だな、と思ったことを覚えている。

アルバムでは特に2曲目のバラードPOLKADOTS AND MOONBEAMSをよく聴いていた。必死になって最初の何フレーズかコピーもした(笑)。転げるような右手のフレーズとところどころでまるで楔を打つように強くなるタッチのイントネーションとか、面白いなと思いながら。左手はスタンダードな運び演奏なので、右手の個性的な「転がり」が強調されてなにか気持ちよさそうな感じがする。一転してレールを走る汽車のような力強いリズムを刻む左手が爽快なOLD DEVIL MOONも大好きな演奏。一聴するとポキポキしたぶっきらぼうな感じがする中に、しなやかなで不思議な美しさとユーモアが感じられる。このユーモアはS・ジョプリンの名曲MAPLE LEAF RAGの演奏にもよく現れていると思う。(家にMAPLE LEAF RAGの譜面があったけど、ずっと秋吉さんの弾いたような曲だと思いこんでて同じようなリズムで弾いていた;)
その後「孤軍」なども買ったけど、ビッグバンドが好みでないせいかもうひとつ気に入らず、私にとって秋吉敏子はソロピアノ・プレイヤーであり続け、唯一のソロアルバムが全てだった。彼女本来の活動である夫君ルー・タバキンとのオーケストラ結成前に録音されていた貴重なソロアルバムに出会ってしまったわけだ。その後30年間続けたバンド2003年に解散した現在、秋吉さんは再びソロピアノで活動している。

POLKA DOTS AND MOONBEAMS
プロフィール

胡舟

Author:胡舟
北海道オホーツクに在住し北の海のクラフトを作っています。

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