怖い絵

怖い絵」という本がとても面白かった。あまり面白かったので続編もすぐ借りてきて読んだ。
名画に潜む謎や描かれた時代背景を丁寧に解き明かし、絵の成立状況を細部まで想像し、すると炙り出されてくる恐怖。単純な恐怖だけでなく時代の闇や人間存在の深奥にある恐さなどが、思いがけない形で絵に表れていたり逆に全く欠落していたり、その”欠落”も怖いということがわかる。作者の専門である西洋史の学識を縦横に用い、豊富な想像力を動員して、絵の背後にある物語を一幕の劇のごとく生き生きと見せてくれる。そうやって作者によって展開された名画はもはや何も知らないで観ていた単なる絵ではなくなっている。中でも断頭台に向かうマリー・アントワネットのスケッチや、グリューネヴァルト「磔刑のキリスト」は圧巻だ。数本の線でさっと描かれただけの小さなスケッチからなんて深く、多くを読み取るのだろう。もちろん作者は西洋史の専門家だけれど、それを差し引いても絵に対する集中力、疑問や興味を深く突き詰めてゆくために駆使する想像力には感心させられる。名画とは小説のように映画の場面のようにあるいはマンガのように、読み込んだり続きやオチを考えたりすることができるものなのだ、それは私たちが感性をフルに働かせて絵に向き合うことで初めて可能になる。ということを、教えてもらったように思った。

私の考える怖い絵ってなんだろう?(前にここに書いたクノップフ「見捨てられた町」も挙がっていたけれど。)しばらく考えてジェイムズ・アンソールの仮面の絵、それとイヴ・タンギーの海底の異形な細胞みたいな絵が思い浮かんだ。どちらもとても怖くて、とても好きな画家。

ジェイムズ・アンソール
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イヴ・タンギー
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プロフィール

胡舟

Author:胡舟
北海道オホーツクに在住し北の海のクラフトを作っています。

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