デルヴォー~冷たき夜の原風景

「青いソファ」1967
ポール・デルヴォーの中で特に愛する絵。放恣に投げ出された青白い肌に、ひんやりと夜気が触れるのが感じられるかのようだ。石畳、トンネル、寒々とした街灯・・どの街にもありそうな侘しさとノスタルジーを感じさせる情景に、忽然と現れる裸女たち。夢の中のような無言劇のような、謎めいたスタティックな幻影。
デルヴォーは終始一貫して不可思議な空間に官能的かつ夢遊病者みたいな女を配した絵を描き続けたが、テーマは変わらねど描かれる女性は微妙に変化していると思う。50年代までは濃い肌色の豊満な女体であったのが、60年代を過ぎるあたりから徐々に青白く少女のような生硬い姿態に変わっている。モデルの変更もあったのかもしれないけど、老境にさしかかった画家に若い肉体への憧憬が兆したのだろうか?私が好きなのもこの60年以降の作品。

「夜汽車」1957
デルヴォーの描く夜の駅や線路はたまらなく好み。夜の果てまで伸びた冷たく光る線路のなんという淋しさ、同時に胸が痛くなるほどの慕わしさ。電車の音を子守唄に育ったからわかる、デルヴォーが駅や機関車に強い郷愁を抱いていただろうことが。そしておそらく、それらは画家の幼年時代の追憶に結びついているのだろう。

「クリジス」1967
これも青いソファと同時期の作品。俯いた女性が愁いを帯びて美しい。女の立っている舞台のような場所が、駅のホームのようにも見える。冷たい夜の街角と硬化したような裸の女の取り合わせ。フロイト風に言えば、幼年時代やらもろもろのコンプレックスなどがミックスされてこびりついた、原風景的な夢のイメージだろうか。