山の人生

北見図書館の一番奥まった部屋に初めて入ってみたら、北海道関係の資料室だった。最近よくそこから借りている。

「北海道砂金掘り」北海道新聞社 加藤公夫著
戦前から昭和40年代にかけて大樹町の暦舟川で砂金掘りをしていた、最期の砂金堀り師・辻秀雄さんの人生を聞き書きでまとめたもの。砂金の話はもちろん、鉱山や山暮らしでのエピソードが興味深い。辻さんは十代で鉱山に入り、鉱夫をやめてからも初老まで独り手製の笹小屋で、山中で砂金を掘りながら暮らした。川で釣りをし、山草やきのこや野ウサギを獲って食べ、必要なものは砂金を売って手に入れた。

衝撃に近い感銘を受けた。久しく忘れていた山の生への憧れが蘇った。「これこそリアルな山の人生!」

賢治文学の山男、遠野物語と山の人生、宮本常一、学生の時に興味を持ったサンカ(山窩)。箱根の山に住んで寄木や凧の職人になることに憧れ、タイマグラに入植してみたかった。山また山を旅して歩くそれ自体が人生、の股旅物にはまったりした。
なぜ山の生に惹かれるんだろう。山に入れば独りで生きられる、そのことに多分共感するのだ。生きる知恵と力があれば、山は生きていくのに必要なものを与えてくれる。

辻さんは「寂しくなると町に出て話をした。そのうち山が恋しくなった。人に使われたりするのは性に合わない」と話す。浮世ときっぱり袂を分かって、誰にも気を使わず誰もあてにせず気楽な山暮らし。
しかし砂金が斜陽となった後も、初老になるまで辻さんを山に引きとめたのは、砂金そのものの魅力だった。一本筋を引いたような単純な生は、赤く輝く(砂金が多く堆積していると赤く見えるそう)砂金への憧れによって、孤高の輝きを放っているように私には感じられる。

この話を聞き書きでまとめた筆者は「最初砂金掘りに興味を持ったのだが、話をきくうち次第に辻さん自身の人生に興味が起こってきた」と書いている通り、文章に一切余計な感想などを入れず辻さんが経験し感じたままを記そうとしていて、効果的に稀有な人生を浮き彫りにしていて好感を持った。

この本の後もしばらく鉱山に関する本を続けて読むことになる。
プロフィール

胡舟

Author:胡舟
北海道オホーツクに在住し北の海のクラフトを作っています。

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