瞳を閉じて

オディロン・ルドン(Odilon Redon)「瞳を閉じて(Les yeux clos)」1890
モデルは夫人。ルドンはこのモチーフを気に入っていたようで、目を閉じた女性の顔を何枚も描いている。深い瞑想性と精神性、とても美しく神秘的な表情。時間を忘れて見入ってしまう。
高校に行くのが嫌で、家を出たら学校へはいかず図書館へ行って一日過ごした。木の多い公園の池に面した図書館は、午後になって混んで来るまではひっそりと静かで、特に半二階の美術書や文学全集の部屋は終日ほとんど誰も入ってこなくて、本の間に隠れて画集を読みふけるのには絶好だった。ここでルドンと出合った。ちなみにマックス・エルンスト「百頭女」や味戸ケイコ、内田百「冥土」などを知ったのもこの時期だ。

「笑う蜘蛛」1871
初めて見たのは素描と石版画集だった。作品はすべてモノクローム。うつろな目をゴロンと見開いた頭部や、暗い虚空に何かの生命体が漂う室内、禍々しくおぞましい笑いを浮かべた蜘蛛。恐かったので最初はすぐ閉じてしまった。でも数日経つと、またおそるおそるその本を開いてみる。その繰り返しから、いつしかルドンの世界に引き込まれていったように思う。
ルドンの主要なモチーフである「見開かれた目」、その目はこちらを全く見ていない。視線は深い暗い内部に向かっている。その目に魅入られて、いつしか私自身の意識も内部へ、無意識の深淵へと導かれる。恐ろしいだけではなく、魅入られてしまう何かがあった。
ルドンに色彩豊かなパステル作品があることを知ったのは、ずっと後になってからだった。「瞳を閉じて」は80年代の展覧会で観て深く引かれた。下の絵もそのときに観て気に入ったものだ。

「神秘的な小舟(La Barque Mystique)」1890-95
高校をサボって眺めふけった画集は、その後ずっと経ってから購入した。